おひとりさまのタンス預金が危険です!


近年、さまざまな分野で多様性を認めようという機運が高まってきています。


しかし残念ながら、特に老齢期における「おひとりさま」への理解は、進んでいるとは言い難い状況です。社会的な仕組みのほぼすべてが、「呼べばすぐに駆けつけてくれる家族がいる」ということが原則となっているからです。

誰にも迷惑は掛けたくないと思っていても、病気や認知症になったとき、そして亡くなった後には、どんな人でも必ず「家族かそれに代わる誰か」の助けが必要となります。


今後、増えつづけるであろう「おひとりさま」。家族に頼ることなく安心して老後とその先を迎えるための終活について考えてみましょう。

今回コラムを書いたひと

谷 茂 さん

たに・しげる

一般社団法人死後事務支援協会・代表理事

安心相続専門チーム「チームリレーションズ」メンバー。一般社団法人 死後事務支援協会代表理事。 遺品整理専門の行政書士として「第八行政書士事務所」を運営。長年遺品整理専門の行政書士として活動する中で死後事務支援の必要性を強く感じ、死後事務専門の団体「死後事務支援協会」を設立。

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おひとりさまのための死後手続き相談窓口のわたしご(「わたしの死後手続き」の愛称です!)では、提携パートナー法人が個々で持つ死後事務に関するノウハウ・情報をコラム形式でお伝えしていきます。今回は、一般社団法人死後事務支援協会 谷茂さんのコラムになります。

他人が勝手に自分の財産を寄付してしまう?!

自分が頑張って築き上げた資産を他人に勝手に寄付されてしまうことがあることをご存知でしょうか?

今回は近年多発している遺品整理の現場から発見された多額の現金が故人の遺志とは関係なく寄付されてしまっている状況があることをお伝えしたいと思います。特におひとり暮らしの方はけっして他人事ではないので要注意ですよ。

タンス預金などの隠れた資産、目に見えない資産が危険!

皆さまは「タンス預金」という言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。銀行などに預けておくのではなく、ご自宅で保管しておく現金のことですよね。

死後事務の一環として遺品整理を行っていると、タンスに限らず押し入れや畳の下、果てはトイレのタンクの中等から多額の現金がみつかることがあります。整理しているお部屋から多額の現金が見つかることは珍しいことではありません。むしろ、現金が残されているかもしれないと疑ってかかるくらいが遺品整理を行う者としては正しい姿勢ともいえます。

しかし、世間一般の方にとってはそうではないようです。離れて暮らしていたご家族や普段はあまり親交のない縁戚の方から、おひとり暮らしの方の遺品整理のご依頼をいただく場合に、「何か探されているものや貴重品はありますか?」と訊ねると、たいていの方が「たいした財産もないでしょうから、全部処分しちゃってください」と言われることがよくあります。

これは、実際に故人の財産状況を把握している訳ではなく、離れて暮らしていたり、お盆や正月くらいにしか会わない、ここ数十年は親交が無かったなど、故人との関係が薄く、故人がどういった生活をしていたのかを知らないための思い込みからの回答といえます。もちろん、部屋の片づけの際に訪れた部屋が都心のタワーマンションなら、「もしかしたら資産家だったかも!?」と思われるかもしれません。

しかし、一般的な賃貸物件で質素な暮らしぶりの部屋の場合ですと多くの方が銀行などの預貯金が全ての財産で「タンス預金なんてないだろう」と思われるわけですね。

そこが落とし穴!

実際には最初にも書いた通り、遺品整理の現場からは多額の現金が見つかることは珍しくありません。しかし、依頼者側が「タンス預金なんてない!」と思い込んでしまっているため、発見できたはずの物が見つかっていないということが起きてしまうのです。

これがただの思い込みで遺品整理を専門業者に依頼したら室内から大金が見つかった!となれば笑い話で済む話しですが、遺品整理業界ではこうしたお金が闇から闇へと消えてしまう問題があります。

遺品整理業者任せは危険!

遺品整理業は特別な資格もなく開業できるお手軽な仕事でもありますが、実際の業務は室内に遺されている物品から遺産の痕跡を探したり、発見した現金や貴金属を依頼者へ正しく引渡す必要があるなど、高度な相続関連の知識と高い倫理観が求められる業務でもあります。

士業が死後事務の一環として行う遺品整理では、国家資格を背負って室内の財産状況をチェックして相続手続きにつなげることが可能ですが、多くの遺品整理業者はそうした知識がないまま業務にあたっているのが現状です。

そうした場合に何が起きるかというと、依頼者が知らない預貯金や有価証券などがただのゴミとして捨てられてしまったり、捜索が不十分なために家財に多額の現金が残されたままゴミと一緒に捨てられてしまうといったことが起きます。

貴重品や現金が見つからなかった場合はどうなるの? 見つかった場合は?

では、こうした遺品整理の現場でみつかるはずだった貴重品や現金が見つからなかった場合はどうなるのでしょうか?

実はそのまま地域の処理施設や産廃の集積場へ運ばれてしまいます。皆様もニュースなどで「ゴミ処分場から多額の現金が発見されました!」などのニュースをご覧になったことがあると思います。あれは、本来遺品整理の現場で発見されて依頼者のもとに返却されるべきはずだったお金が杜撰な遺品整理の結果、見つけてもらえずに最終処分場までいってしまったケースが多く含まれています。

でもでも、最後の最後で見つかったなら、本来の持ち主へとお金が返ってくるのでは? と思われるかもしれません。

しかし実際にはそう上手くはいきません。なぜなら、市区町村の処理施設や産廃の集積場には毎日大量のゴミが搬入されており、その中から見つかったお金がどの業者が持ち込んだゴミから見つかったお金なのかは判別がつかないからです。

ですので、ニュースなどでは「お心当たりのある方は最寄りの警察までお知らせください」と報じるのですが、実際に所有者が見つかることは稀でしょう。なぜなら「タンス預金なんてない」と相続人側が思いこんでしまっているため、多額の現金が見つかったというニュースを見ても自分が依頼した遺品整理の中から出たお金とは夢にも思っていないからです。思い込みって怖いですよね。

おひとりさまの資産は、見える化しておくことが大事!

結果的にこうしたお金の行方は発見した市町村や産廃業者が遺失物として届け出をした後に持ち主が不明となれば発見者のものとなります。その後の扱いは発見者の方の判断となり、コロナ禍ではコロナ対策として活用してくださいと寄付などに充てられたケースもあります。

しかし、本来は相続人などに行くべきはずだったお金がまったくの第三者の手によって故人の遺志とは関係ないところへと寄付されてしまう――。ものすごくモヤモヤした気持ちになりませんか?

タンス預金に限らず近年はネットバンクや金融商品の増加から目に見えないお金も増えています。こうした目に見えない資産は専門家であっても何か端緒となる資料がなければ気づくことが難しい財産でもあります。

反対に、なにかのきっかけ、例えば「エンディングノート」や「家計簿」「スマホのアプリ」などがあれば詳細が記載されていなくても専門家なら財産を探し当てることが可能となります。

自分が築き上げてきた大切な財産を他人に勝手に寄付されないためにも、遺言書などのような専門的なものでなくてもかまいませんから、エンディングノートのような形で見える化しておくと、発見の糸口となります。

おひとりさまの終活の第一歩は資産の見える化から始めてみるといいですよ。


一般社団法人死後事務支援協会・概要

~おひとり暮らしの方やご家庭の事情で死後の手続にお困りの方のお手伝い~

相続及び死後事務手続きを専門に扱う士業が運営する「死後事務支援協会」は、おひとり暮らしの方やご家庭の事情により自分の死後の手続きお願いできる相手がいない、または遠方に住むご家族の負担を減らしたいとお考えの方をサポート。万が一の際のご遺体の引取りから喪主の代行、行政機関への届け出、遺品整理等をご家族に代わって行う死後事務委任契約を中心としたサービスを提供している。

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